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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)525号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人田中又一提出の上告趣意は末尾添附別紙記載の通りである。以下各點に付き其理由なき所以を説明する。

第二點に付て

銃砲等所持禁止令にいわゆる「所持」とは自分の支配し得べき状體に置くことをいうのである。他人から預った物で自己の所有に属しないということは「所持」ということの妨とならない。論旨にいう様に人から預って自宅の水屋の引出に入れて置いたという行為は其れ丈けで右「所持」に該當するのである。父と同居して居り父の家であっても自分が預って自分で引出に入れて置いたものである以上自分で支配し得る状體にあったといえるから「所持」というに差支えない。論旨は憲法違反という語を使用して居るけれどもこれは前記法律にいう所持という語を誤解して被告人の行為が右「所持」に該當しないと主張し、それを前提として罪とならない行為を罰した原判決は違憲だというのである。其故被告人の行為が罪となるべきものであるならば論旨と雖憲法違反とはいわない趣旨であること明である。從って原判決が論旨にいう憲法違反であるか否かは被告人の行為が罪となるべきものであるか否かによってきまることでありこれは前記法律の「所持」に被告人の行為が該當するか否かの問題であるから結局右法律にいう「所持」の解釋の問題であって憲法上の問題ではない。こういうのは假令論旨中に憲法違反という語が使用されて居ても裁判所法第十條第一號にいう「処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき」というに該當しないと思うが(蓋ここで判斷すべきことは前記「所持」の意義如何ということ丈けで其れ以外何も憲法上の問題はないからである)尚本件の場合は論旨にいう憲法違反なりや否やを決する根據たる右「所持」の意義に付ては既に大法廷で詳しく判示して居り(昭和二十三年七月二十九日言渡同二十三年(れ)第三九七號事件判決)それにより被告人の行為が「所持」に該當することは明であるから最高裁判所裁判事務處理規則第九條第四項によっても大法廷によらず當小法廷において裁判を為し得べきものである(右大法廷の判決では特に他人から預ったものでもいいという様なことは明にはいって居ないが自己の支配し得べき状體にあれば其れ丈けでいいので其外に「自己の所有」等の要件を必要としない趣旨であることは明である。尚右大法廷の判決で自宅内に置いてあるものは反對に認むべき特別の事情のない限り自己の支配し得るべき状體にあるものと認むべきものだということも示されてあり本件においては右の様な特別の事情は何もない)。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑事訴訟法第四百四十六條に從い主文の如く判決する。

以上は(中略)當小法廷全員一致の意見である。(下略)

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 河村又介)

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